キジツク

生成AIは使っても大丈夫?著作権と今後の課題

ビジネス上でその有用性が注目されてきている生成AI。使いこなしている人も多いのではないでしょうか。しかし、生成AIを業務で使うときは著作権侵害に気をつける必要があります。本記事では、生成AIを使ったプロダクト制作に携わる筆者が「生成AIと著作権」をテーマに考察します。

生成AIと著作権問題の現実

文章だけに限らず、画像や動画など様々なコンテンツを手軽に生み出せる生成AI。ところで、生成AIから生み出されたコンテンツは誰の著作物になるのでしょうか。

AIが生み出す作品の著作権は誰のもの?

生成AIを使って生み出された作品の著作権は誰のものになるでしょうか。順番に考えていきましょう。

  1. 生成AI自体が著作権を持つパターン
  2. 生成AIを利用したユーザーが著作権を持つパターン
  3. 生成AIが学習した元データの著作者が著作権を持つパターン

生成AI自体が著作権を持つパターン

まず「生成AI自体が著作権を持つパターン」。現行法では「著作権は人間に属するもの」となっており、生成AIは人間ではないため著作権を持つことはできません。つまり、生成AIサービスの提供者が著作権を主張できないということになります。

生成AIを利用したユーザーが著作権を持つパターン

次に「生成AIを利用したユーザーが著作権を持つパターン」。著作権が認められる条件として「作者のオリジナリティが表現されていること」があげられます。生成AIを使って適当に生み出されたコンテンツは、ほかの人間が使ったとしても同じものができてしまうため、著作権を認められない可能性があります。

言い替えれば、独自のプロンプトで生成されたコンテンツはオリジナリティある制作物といえます。

生成AIが学習した元データの著作者が著作権を持つパターン

最後に「生成AIが学習した元データの著作者が著作権を持つパターン」。文化庁が2023年6月に発表した「AIと著作権」では以下が明記されています。

  • 著作権法は、「著作物」を保護するものです。
  • 著作物でないもの(単なるデータ(事実)やありふれた表現、表現でないアイディア(作風・画風など))は、著作権法による保護の対象には含まれません。

引用元:A I と著作権

つまり、特定のデータを参考に生成AIでコンテンツを生成しても、著作権侵害にはならないことがわかります。しかし、生み出されたコンテンツには「オリジナリティがない」ため著作権が認められるかは疑問が残ります。

訴訟に発展しているケースも

すでに生成AI関連の訴訟は世界中で起こっています。とはいえ、個人ユースでの生成AIコンテンツが訴えられたケースはまだ確認されていません。現時点では企業間での訴訟がメインです。

「ウルトラマン」で有名な円谷ブロダクションは、中国企業が「ウルトラマンの画像」を生成AIサービスによって無断で生成、商用利用したとして訴えました。広東省広州インターネット裁判所は、裁判所は著作権の侵害を認定、1万人民元(約20万円)の存在賠償と画像の生成防止を命じました。

ほかには、大手レコード会社ソニーミュージック、米ユニバーサル・ミュージック・グループおよび米ワーナーレコードの三社は、音楽生成AIサービスを展開するUdioとSunoを連邦裁判所に提訴。アーティストの楽曲を無断で使い「直接競合し、陳腐化させ、最終的に人間のアーティストを凌駕するような学習」を施したとのこと。訴訟では、1曲につき最大15万ドル(約2,370万円)の損害賠償を求めています。

生成AIを使うときに気をつけるべき2つのポイント

生成AIを使うときに気をつけるべきポイントを2つにまとめました。

  • 他人の著作データを入力する際は用途に問題ないか検討する
  • パブリックドメインとクリエイティブ・コモンズを知る

他人の著作データを入力する際は用途に問題ないか検討する

生成AIは「プロンプト」と呼ばれる命令文を与えることで、文章、画像、動画などを生成します。このプロンプトに他人の著作データを入力しないことが重要です。もちろん個人で楽しむ分には問題ありませんが、SNSであたかも自分の作品のように発表する、商用利用することは避けましょう。

パブリックドメインとクリエイティブ・コモンズを知る

生成AIに入力できるデータとして代表的なのが「パブリックドメイン」や「クリエイティブ・コモンズ」です。

パブリックドメインとは、知的財産権によって保護されていない、またはその保護期間が終了した作品や著作物のことです。通常、著作者の死後70年が経過すると、その著作者の作品はパブリックドメインになります。具体的にいえば、レンブラントやゴッホなどの作品はパブリックドメインとして利用できます。

クリエイティブ・コモンズは、著作物の利用に関する権利を明確にし、著作者が作品の使用条件を簡単に表示できるようにするためのライセンス体系です。利用者は、著作者の定めたルールに従って作品を利用する分には、著作権侵害になりません。ルールには以下があります。

CC BY 著作者のクレジットを表示すれば、自由に利用、改変、再配布が可能
CC BY-SA 著作者のクレジットを表示し、元のライセンスと同じ条件で二次作品を共有する場合、自由に利用、改変、再配布が可能
CC BY-ND 著作者のクレジットを表示すれば、改変せずにそのままの形で再配布が可能
CC BY-NC 著作者のクレジットを表示し、非営利目的で利用する場合、自由に利用、改変、再配布が可能
CC BY-NC-SA 著作者のクレジットを表示し、非営利目的で元のライセンスと同じ条件で二次作品を共有する場合、自由に利用、改変、再配布が可能
CC BY-NC-ND 著作者のクレジットを表示し、非営利目的で改変せずにそのままの形で再配布が可能

こういった利用規約をしっかりと確認・対応したうえで、生成AIを活用する分には問題はありません。

どう変わる?生成AIの未来の課題と展望

生成AIはまだまだ法整備が追いついておらず、多くの社会的課題が出てくると考えられています。また、クリエイターがどのように生成AIと付き合っていくべきかなど議論は絶えません。ここでは、この2点を筆者の目線で考察してみます。

法律の変化と新たな規制をウォッチしよう

生成AIの登場によって、著作権の考え方があらためて見直されています。生成AIに関連する法的な整備が追いついていないこともあり、ユーザーモラルや社会的な枠組みもまだまだ変化していくでしょう。著作権違反は「知りませんでした」では許されません。そのため、法律の変化や新たな規制が生まれていないか、常にウォッチしておくことが大切です。

クリエイターとAIの共存の可能性は?

生成AIは、クリエイターがこれまで研鑽してきた技術を簡単に模倣できてしまうという点で脅威です。生成AIを完全な「悪」としてではなく、むしろクリエイター側が積極的に活用していく動きも見られます。

筆者としては「どちらが良い」というわけではないと考えます。純粋に人の手で作られたいわゆる「ハンドメイド」に価値を感じる人も出てくるでしょうし、AIならではの表現を磨くクリエイターも出てくると思うからです。生成AIの登場で、市場がどのように変化するかを見極めることが重要ではないでしょうか。

まとめ

生成AIが出てきたことで、これまで専門的な技術を持っている人しかできなかった表現が誰でもできるようになりました。しかし「生成AIでなんでもしていい」わけではありません。著作権を尊重し、適切な運用を心がけるようにしましょう。

 

記事一覧はこちら