AIネイティブな新人にどう向き合う? 生成AI時代の人材育成 ―社内AI推進担当の「こんな時、どうする?」Vol.5
ChatGPTが本格的に普及したのが2023年。たった1年で「AIを使うのが当たり前」という雰囲気をゴリゴリに押し出してくる「AIネイティブ世代」が新入社員としてデビューし始めるようになってきました。
その一方、業務経験が浅い状態だとAIのアウトプットへの「良しあし」の判断が難しいこともあり、若手人材にどうAIと向き合ってもらえばよいのか、というのは今後じわじわと課題になっていきそうな気がします。そんなわけで今回は、「AIネイティブ世代の育成」について考えていきたいと思います。
AIのアウトプットをほぼそのまま提出されたときは
「できました!確認お願いします」…と、新入社員から早々に提出された資料を見て覚える違和感。念のため確認すると、「AIが出したアウトプットです」と言われ、改めて細部を読み込むと、顧客への洞察が甘かったり、企画としての新規性に欠けていたりする。そういう光景に出くわして、「若手人材にどこまでAIを活用してもらうべきか」悩む方からご相談をいただくことがしばしばあります。
もちろん、若手時代は誰だって業務や顧客への理解が浅いはずですし、若手時代は先輩社員からのOJTを受けながら現場経験を積んで、徐々に判断力を磨いていく。そういう構図は昔からそうだったはずです。ただ、AIを活用すると、1つのアウトプットを出すまでの諸工程が大幅にショートカットされ、一昔前であれば「人間が考えながら行っていた作業」がすっ飛ばしてしまう側面もあるのかもしれません。「AIのおかげでアウトプットのスピードは異様に早いが、精度はイマイチ」という状態が続き、先輩社員のレビューがないと先に進めない、という格好になってしまうと、マネジメント層として悩んでしまう気持ちも、分かります。
AIの利用、許可する?しない?
あえて最初のうちはAIを解放せず自分の力で業務を進めてもらい、業務の勘所を押さえてきたらAIを使ってもらうようにする―――みたいな事例も聞いたことがあり、業務内容によってはそういうのも確かに、アリなのだろうなと思います。
一方で僕個人が意識しているのは、「中途半端な量をこなさせるより、AIで効率化できる部分はどんどん任せ、その分、アウトプットの量を増やしてもらう」ということです。
特にはじめのうちは「量」をこなすことで、判断力が磨かれたり、多様なケースでの対応力が身についたりするような印象がありますし、そこからの成功事例も見出しやすいと考えているため、特に何か企画的な業務をお願いするときは、「たくさん出したうえで良いと思うものをいくつか提示する」ようにお願いしています。「なぜ良いと思ったか」「なぜ悪いと思ったか」という判断軸を含めて提出してもらうことで、その判断軸に対する意見を伝え、次のブラッシュアップにつなげてもらう。そういうイメージです。
最初のうちは最終的に10個提案してもらった中の1個しか採用されなかったところ、10個中5個採用されるようになったとか、そういう形で施策の精度を高めていけるよう、本人とも握りながら進めていきます。また、その過程でどのようにAIを活用し、プロンプトを組んだかなど、むしろAI活用の先駆者として役割を持ってもらうのもアリかなと思っています。
アウトプットの質を高める「場」を提供する
こんな風に大量のアウトプットを経験してもらい、それを先輩社員がレビューする、というケースももちろんあるのですが、加えて個人的に意識しているのは、AIネイティブ世代に「多様な方向からのフィードバックを受けてもらうこと」。平たく言えば、アイデアを積極的に会議の場などで発表してもらい、OJT担当以外の社員からもコメントをもらうようにしています。
例えば、新人がAIを活用して作成した記事の企画に対して上司からは「会社のビジョンに合致しているか」、先輩社員からは「分かりやすさや読みやすさ」、デザイン部門の社員からは「UI/UX上の工夫点」みたいな、異なる視点からのフィードバックを得られるかもしれません。
AIネイティブ世代にとって、質の高いフィードバックは、成長を加速させるための貴重な栄養剤となります。惜しみないフィードバックによって、彼らの才能を最大限に開花させていきましょう。
特に、リモートワークが普及し、コミュニケーションが希薄になりがちな現代においては、意識的にフィードバックの場を設けることが重要です。カチッとした会議ではなくとも、チャットツールを活用してもいいでしょうし、部署内でのレビュー会を定期的に開催したり、新人のアウトプットを共有する専用のスペースを設けるのも良いと思います。
AIネイティブ世代の社員には、フィードバックを通して、自身の判断基準を客観的に振り返り、修正していってもらいたい。その繰り返しによって、AIを活用しながらも、質の高いアウトプットを生み出せるようになってほしいと期待しています。
AIとの向き合い方を問う
これからのビジネス環境を考えると、「AIとどう付き合うか」は企業だけでなく、一個人としても重要な命題と言え、むしろこの領域に無頓着な人材は、ちょっともったいないような気すらしてしまいます(あくまで個人の意見です)。そういうこともあって最近僕は採用面接の段階で、応募者がAIをどうとらえ、どのようにキャリア戦略を考えているのか、掘り下げることがあります。
スラスラと答えられる人は少ないですが、
- これまでの学業や仕事で、AIをどんなふうに使ってきましたか?
- AIによって、あなたの仕事はどのように変わっていくと思いますか?
みたいな質問をすると、本人の仕事観や、新しい技術へのキャッチアップレベルがおぼろげに見えるような気もするのでおすすめです。
今後のビジネス環境は、これまでとはまた少し違ったものになることが想定される中、AIネイティブ世代の育成は、一筋縄ではいかないかもしれません。しかし、これまでとは違った強みを持った戦力をきちんと活躍できる環境を整えていくことが、先輩社員のすべきことなのかな、と思っています。
タグ一覧