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【連載1回目】取材記事の編集者・ディレクターって何してるの?働いてるの?いる価値あるの?

WEB上に多くの情報が溢れかえる昨今、企業のサービスやそこに勤務するワーカー、一般の生活者などを取材したさまざまな記事が日夜生み出されています。

こうした取材記事の執筆は主にライターが、撮影はカメラマンが担当します。では、制作現場にいる「編集者・ディレクター」は、いったいどのような役割を担っているのでしょうか。

もしかしたら制作現場に近い人ほど「この人たちって結局のところ何をしているの?」「ぶっちゃけ、いる価値あるの?」なんて思っているかも……?

この連載は、そんな疑問に真正面からお答えするために生まれました。といっても、まだまだペーペーのWEB編集者の戯言です。ぜひあまり参考にせず、片目をつぶって読んでいただけたら嬉しいです!

連載第1回目は、WEBの取材記事の編集者・ディレクターの役割やその業務範囲や価値について紹介します。

金指 あゆみ
株式会社となりの編プロ 代表取締役/編集者・ライター

慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、大手信託銀行に4年半勤務。その後、不動産関連会社、証券会社、ITベンチャーを経て、2017年12月よりライターとして、2020年頃より編集者として活動。2023年12月に法人化。主に金融・ビジネス・人材系のコンテンツ制作に携わっている。

取材記事の編集者・ディレクターとは

取材記事の編集者・ディレクターの定義は決まっていませんが、記事制作における全体の流れを把握し、企画から校了まで責任を持って担当する人、だと私は捉えています。

ライターが取材や執筆、カメラマンが撮影、WEBデザイナーがページデザインや図解制作などの一部分を担うのに対し、編集者・ディレクターは案件全体を薄く広くカバーすることが多いです。

また、その業務範囲も案件によって異なるので、これほど「一概に言えない」という言葉が似合う仕事はないんじゃないかなと思っています。だからこそ「何をやっているのかわからん」という印象につながるんでしょうね〜。

ちなみに「編集者」と「ディレクター」のどちらを呼称するのかも、その人の好みや役回り、会社のブランディングによって変わるようです。私は「なんとなく漢字がいいかなぁ」という雑な理由で「編集者」の肩書きを使っています。

取材記事を制作する流れ

編集者・ディレクターの業務範囲を語る前に、取材記事を制作する流れを紹介しましょう。もちろん案件によって異なりますが、おおむね次のような流れで進めることが多いと思います。

なお、これはWEB記事の編集者から見た制作の流れなので、サイト制作や紙媒体の制作はまた全然違います。編集業って本当に奥が深いですよね。

ゼロから始めるWebディレクター|基礎知識編

1.企画

何らかのWEB媒体に記事を掲載するときには、まず「どのような記事を作るのか」という企画から考えます。すでに明確な企画が決まっていることもあれば、「とりあえず記事を掲載したいな〜」という、ふわっとした状態で話をいただくこともあります。

クライアントから記事制作の話を受けたら、まずはこの企画の内容を確認し、あまり固まっていないのであれば制作目的に合わせて企画を考え、「どんな記事を作ればよいのか」「誰に話を聞けばよいのか」などを固めて、記事の完成形を描くようにします。

ちなみにここであまり考えずに「とりあえず走りながら決めればなんとかなるっしょ」と動き出すと、たまに案件が大爆発して修復に苦労したりするらしいです。こわいですね〜。

2.関係者のアサイン、案件進行

制作する記事の内容が固まったら、必要な関係者をアサインします。だいたい以下のメンバーが必要になります。

・取材させてもらう人(インタビュイー):そのテーマについて語れる専門家、当事者、著名人、社員さんなど

・取材する人(インタビュアー):取材ができるライターか、取材音源から執筆できるライター

・撮影する人:カメラマン(予算が下りないときは誰かが代行)

このほか、取材せずにライターが書ける内容だけれど、専門家にチェックしてほしいときは監修者を、オリジナルの図解制作やイラストの制作が必要な場合は、WEBデザイナーやイラストレーターをアサインすることもあります。

参加してくれる関係者が決まったら、全体の制作スケジュールを立てたり、全体の予算を確定させたりもします。

3.取材の事前準備

制作スケジュールに沿って、取材日の設定や質問票の制作、取材先や監修者とのやりとりなどを行います。質問票をライターに制作してもらうこともありますね。

次の連載で書くのですが、個人的にはこの事前準備がかなり大事だと思っています。

4.取材

取材当日に、取材対象者にお話をうかがい、必要に応じて撮影も行います。

撮影が入る案件だと原則は「対面取材」になりますが、撮影のない案件だと、zoomなどのオンラインツールを使う「オンライン取材」のほうが多いかもしれません。

ちなみに、撮影班だけ取材現場に行き、ライターや編集者はオンラインツールから取材するという、ハイブリッド型の案件もあります。

この日の主役は取材対象者やライター、カメラマンです。では編集者は何をしているのかというと、まあいろいろやっています(あいまい)。

私見ですが、一番大事なのは話しやすい空気づくりだと思っていますので、これもまた別の記事で書かせてください。

5.原稿制作

取材が終わったら、その後1〜3週間程度で原稿を制作します。ライターからテキストを、カメラマンから画像データをもらって、原稿に落とし込みます。

このとき、制作の目的に合わせて、読みやすさの観点からテキストを編集したり、画像データのリサイズしたりもします。

6.原稿確認

制作した原稿をクライアントに確認してもらい、内容を修正した上で、取材先や監修者などにも原稿確認を依頼します。コンプライアンスに厳しい企業が関わっている場合、企業の広告部門などでのチェックに1〜2ヶ月かかることも……。

7.校了、校了後の手続き

各所の確認が完了したら、最終稿(念校)を制作し、その確認が終われば「校了」となります。お疲れ様でした!

しかし編集者・ディレクターの仕事はまだ続くんです。記事が公開されたらそれを各所にお伝えしたり、各所から請求書をもらったりと、こまごまとした作業が残っています。

編集者・ディレクターの業務範囲は「だいたい全部」

取材記事の制作の流れはこんな感じです。そして、編集者・ディレクターの業務範囲は、だいたい全部だと思っています。

もちろんライターやカメラマンなどにいろいろとお願いするのですが、制作工程にずっと関わっている制作側の人間は編集者・ディレクターしかいません。全体を俯瞰して見ていたい人には、ものすごく向いている仕事だと思います。

加えて、ライタースキルがあれば、取材や執筆も担当してそのぶんの報酬も獲得できます。撮影スキルがある場合も同様です。

ただ、ライターやカメラマンとは別に編集者がいると、取材当日に何かと便利なので、個人的にはあまり兼務させたくないなあと思っています。

結局、編集者・ディレクターはいる価値あるの?

取材記事制作において、編集者・ディレクターはもちろん必要です。これまでに述べたさまざまな業務は、編集者・ディレクターがいなかったら誰かがやらざるを得なくなります。

でも実際は「これ、編集者・ディレクターがやることだよね?」と思われる仕事を、クライアント側が好意でカバーしてくれていたり、ライターが仕方なく代わりにやっていたりすることがあります。

この亀梨さんの記事を読むと、ライターの仕事と内容がかなり重複していることがわかります。ライターがカメラマンをアサインできちゃった日にはもう編集者・ディレクターの存在価値が……。

【連載:ゼロから始める取材ライター①】取材ライターとは?  業務内容の全体像

もちろん、編集者・ディレクターの業務を全部誰かがカバーしてくれることはありません。でも上記のように、誰かの力を借りてなんとか案件が進行しているような状態で、それに編集者・ディレクターが気づいていなかった場合、「あの編集者、ただの伝書鳩(通称、はとぽっぽ)だよね」「いる価値ないよね」という話になる可能性はゼロではありません。ああ、おそろしい。

ということで、現場で必要とされる編集者・ディレクターになれるかは、自分の働き次第だと思います。あと関係者たちに「ありがとう」「ごめんなさい」が言えるかどうか。これも意外と大事な要素ではないでしょうか。

今回は、取材記事制作の流れに基づいて、編集者・ディレクターの役割や価値についてお伝えしました。現場で必要とされる編集者・ディレクターになれるよう、私も気を引き締めて働きます!

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