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AI導入、目的化していませんか?業務特性を見極めたDXのススメ ―社内AI推進担当の「こんな時、どうする?」Vol.3

ChatGPTをはじめ、生成系AIの登場はあまりにも衝撃的だったので、「これがあれば何でもできてしまうのではないか」と鼻息荒くなる気持ちも分かります。しかし、「AIを導入すれば何かが変わるはず」という漠然とした期待感だけが先行し、「AIを導入すること」それ自体が目的になってしまうことも多々あるように思います(少なくとも僕はそうでした)。

AIは確かに強力なツールではあるものの、あくまでも業務効率化の「手段」の一つでしかありません。現状ではまだまだ「AIより、人に聞いた方が良いケース」「シンプルなRPAツールを導入した方が効率的なケース」も多々。そんな中、どうやって業務特性を見分けて「適材適所」でさまざまな手段を使い分けるべきか解説します。

 

まむし
まむし

慶應義塾大学法学部卒業後、ネットニュースにて記者を務め2013年に国内大手のメガベンチャーへ転職。編集部門を立ち上げ、責任者として10以上のウェブメディアの立ち上げに携わる。2020年には経営学修士(MBA)を取得しビジネス領域での理論を応用した編集現場の知見を各地で講演・執筆。

 

まずは、業務を因数分解してみよう

業務改善の際にまず重要なのは、「業務の因数分解」です。

例えば、「オウンドメディアの記事作成」という業務を例に考えてみましょう。「記事を作成する」という業務も、例えば以下のように細かく分解していくことができます。

コンテンツ制作の因数分解

※これはあくまで一例であり、さらに細かく分解していくことももちろん可能です。

こんな風に分類分けたうえで、それぞれの業務が以下の5つのワークのどれに該当するか、落とし込んで考えてみましょう。

  1. ナレッジワーク
  2. プロフェッショナルワーク
  3. インシデントワーク
  4. コミュニケーションワーク
  5. ルーティンワーク

5つのワークとAI活用のポイント

  1. ナレッジワーク

ナレッジワークとは、情報収集や分析などを行う業務のことです。コンテンツマーケティングの文脈で言えば、市場調査、ペルソナ設定、競合調査などが該当します。

ナレッジワークの効率化にはいくつか定石がありますが、そのうちの一つが「情報源を絞ること」です。世の中に情報が溢れている今、全てを網羅することは土台不可能なので、「教養として知っておくべき」くらいの内容であれば、信頼できるインフルエンサーや専門家によるキュレーションに頼ったり、自身と相性の良いメディアや書籍から情報を得るように意識する…みたいな感じ。一方、自身が専門とする分野については、現場に足を運んだり、一次情報に触れる機会を積極的につくったりして、メリハリをつけるのもおすすめです。社内外を問わず、同じ目的を持った仲間と情報交換や議論を行う場を持つのも有効と言えるでしょう。

ネット上の情報を効率的に集めるというケースであれば、Perplexityのように検索型のAIを使うと効率的ですし、大量に集めた情報をAIに集約して抽象化してもらう、というのも可能でしょう。とはいえ、上述の通り、ネット上の情報に限らず「知っている人に聞けばそれでOK」「専門家による考察が知りたい」「一次情報を取りに行くことが差別化につながる」といった情報も多いですし、AIを用いなくても、RSSやRPAツールを用いて自動的に情報をクローリングすることで情報収集の手間をへらすこともできはします。「自身がどのような情報を収集したいのか」という視点で、手段を選んでいくことが必要です。

  1. プロフェッショナルワーク

プロフェッショナルワークとは、その人の専門知識やスキルが求められる業務のこと。

この領域の効率を高める定石は、身も蓋もありませんが「スキルの向上」です。とはいえスキルを磨くのには一定の時間を要するので、短期的に効率を上げるのであれば、「自分より熟練した先輩に聞く」「業界の勉強会や交流会に参加し、他社のプロフェッショナルと意見交換をする」などが挙げられます。

AIを活用する場合は、あくまでも「アシスタントツール」として捉えることが重要です。プロフェッショナルワークの中で、特に最終的なクオリティに影響の大きい判断を要する部分は自分の手で行い、文章の誤字脱字チェックや、表現の提案など、AIはクリエイティブな業務をサポートするツールとして活用するとしっくりきやすいかと思います。

  1. インシデントワーク

インシデントワークとは、突発的なトラブルやクレーム対応など、想定外の事態に対処する業務のことです。

インシデントワークを効率化させる一番の定石は、とにかく「発生頻度を減らすこと」。特に「判断」に費やす心的・時間的労力が大きくなるので、事前に判断軸となるようなルールを決めておくのも一つですし、インシデントが発展しないよう、事前の説明を尽くしておくというのもポイントです。ひらたくいえば、FAQページを作成しておくとか、トラブル発生時の対応マニュアルを作成しておくとか、そういうものが当たるでしょう。

AIを活用する場合は、「過去の事例分析」や「対応の自動化」などが考えられます。過去のトラブル事例をAIに学習させることで、同様のトラブル発生時に迅速な対応が可能になります。

  1. コミュニケーションワーク

コミュニケーションワークとは、客や社内外のメンバーとのコミュニケーションに付随する業務のこと。どんな仕事にもコミュニケーションの要素はあるので、割と汎用的な定義になってしまいますが、メールやチャット、電話対応などが該当します。

コミュニケーションワークの業務改善の定石は、「ツールを変えること」と「ルールを決めること」。口頭の会議をメールやチャットに置き換えることで、一堂に会さなくても議論できるようになりますし、顔を突き合わせて議論することで、メールを何往復もする手間を減らせる側面はあるかもしれません。また、コミュニケーション時のルールの在り方によって、議論が闊達になったり、逆に報告がスムーズになったりするので、そうした場づくりの工夫も大切です。

大きくの場合コミュニケーションワークは、「相手から発せれる情報のインプット」と「こちらからの情報や意見のアウトプット」から成り立っています。「情報のインプット」においては、AIによる音声認識や自然言語処理技術を用いることで、議事録をつくったり、顧客からの問い合わせ内容をサマライズでき、効率化できます。

「こちらからの情報や意見のアウトプット」においても、AIによる文章校正や翻訳機能を活用することでダイレクトに工数は減らせますし、特に、ネガティブな内容への対応など、感情労働的な負荷の大きい仕事は、AIに初稿を作ってもらえると心的負荷が軽減されるのでおすすめです。

  1. ルーティンワーク

ルーティンワークとは、定型的な繰り返し業務のこと。一般的には、データ入力や請求書処理などが該当します。

ルーティンワークを改善する定石は大きく以下の3つ。

  1. 分担・標準化: 業務を細分化し、他の担当者でも対応できるようにマニュアルを作成する。
  2. 自動化: RPAツールなどを活用し、システムによる自動処理化を進める。
  3. 廃止: 業務フローを見直し、本当に必要な業務かを見極める。

これまで、「判断を要さない、完全にフォーマットが決まっているような仕事」についてはRPAによる自動化がかなり功を奏していたのですが、今後は判断の部分も、AIが担える(あるいはサポートツールとしての役割を担える)ようになっていくことが期待できます。あらかじめ決められた判断軸に則って対応方針を提案してもらえるようにプロンプトを組んでおいたり、初心者でもその業務が遂行できるようなサポート体制を作ることで、チーム内のタスクシフトを進めていくこともできるかもしれません。

まとめ:AIは万能ではない。業務特性を見極め、最適な活用を

今回は、業務特性を見極めるという観点から、AIを有効活用するためのポイントについて解説しました。

AIは、使い方次第で業務効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。ただ繰り返しますが、AIはあくまでも「道具」にすぎません。重要なのは、それぞれの業務の特性を理解して要所要所で活用していくこと。業務を棚卸し、AIを導入すべき業務、人で対応すべき業務を分類し、楽しく仕事ができる環境を作っていきましょう。

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