キジツク

社内のAI推進担当「何からすべきか」分からないあなたに ―社内AI推進担当の「こんな時、どうする?」Vol.1

2023年にChatGPTが広まって以降、企業においてもAIの導入が急速に進んでいます。とはいえ、その導入レベルは「とりあえずChatGPTの有料版が使える」みたいな状態から、「社員各人が業務の要所でフル活用している」みたいなところまで、本当にさまざま。
こういうギャップの背景には、その会社の風土や、社内AI推進担当者の働きかけなどがありそうな気がします。

僕自身も一企業でAI推進担当としての役割を担っているので、その視点から、このシリーズ第1回を始めていきたいと思います。

まむし
まむし

慶應義塾大学法学部卒業後、ネットニュースにて記者を務め2013年に国内大手のメガベンチャーへ転職。編集部門を立ち上げ、責任者として10以上のウェブメディアの立ち上げに携わる。2020年には経営学修士(MBA)を取得しビジネス領域での理論を応用した編集現場の知見を各地で講演・執筆。

企業のAI推進にありがちな「総論賛成、各論反対」

2023年、ChatGPTが一般に知られたときの衝撃は、非常にセンセーショナルでした。

「生成系AIがあれば、これからはライターがいなくても記事が書けるようになるのではないか」という一抹の恐怖を帯びた期待感が、ライターや編集者の間では広がり、今後の生存戦略を不安視した人も多かったほどです。

企業内部でも、「AIを活用すればコスト削減できる」という大きな期待を寄せる人がいる一方で、「AIはまだまだだ」と強い拒否感を示す人も。いまなお現在進行形で、SNSを中心にさまざまな議論が巻き起こっています。

確かに2024年現在、冷静にAIのアウトプットを見ると、「手放しに業務の全工程をお願いできるレベル」ではないかもしれません。ただ、今後も様々なAIが登場して精度が上がっていくことは確実であり、AIとの向き合い方を考えることは企業の必須項目になりつつあります。ですから、AI導入については多くの人が「やるべき」だとは思っている。けれど、手放しには導入できないという「総論賛成、各論反対」の図式になりがちなのが実情かと思います。

特に経営層など意思決定層はコスト削減に前向きなことが多いですし、ChatGPTをはじめとする生成系AIも月額数千円で利用できますから、導入自体は進みやすい印象があります。
しかし、問題は導入後。実際に何かを進めようとすると現場が思うように動かないことがあるのも事実です。結果として、「ツールを導入するだけで終わり」になってしまい、具体的なユースケースが集積されていかない企業も多いのではないでしょうか(これを書いている僕も、耳が痛いです)。

AIを推進する上での重要ポイント

もちろん「個人として業務改善をしたい」というレベルであれば、有料のAIツールを導入しただけでも大きな前進ですし、一定の成果は見込めるかもしれません。

ただ、「AIを活用して組織としての生産性を爆上げしたい」「他社に対して差別化していきたい」と思うのであれば、もう一歩踏み込んでAIの推進を進めていく必要があります…し、わざわざ社内に「AI推進担当」を据えるようなケースであれば、このくらいの成果が求められてしかるべきという気もします。

そうした場合、いきなり組織全体を巻き込んでいくと動きが鈍りがちなので、まずはAI活用に前向きなメンバーを集め、少人数で始めてみることをお勧めします。いわゆる「タスクフォース」というやつです。

少人数のタスクフォースをつくろう

僕自身も企業で生成AIのタスクフォースを部署横断で構成していますが、メンバー構成の過程では以下の三点を重視しています。

少人数のタスクフォースを作ろう

1.は説明しなくてもよい気がしますが、この中で特に補足が必要なのは2.と3.でしょうか。

「 仕事に対する客観的な評価ができる」というのは、生成AIが出したアウトプットに対して冷静に「良しあし」を判断・議論できる能力のことです。生成AIによって何かをアウトプットするとつい、イノベーティブなことをやってのけたような気持ちになって、アウトプットに対する評価が甘くなりがちです(僕の周りではこれを「AIハイ」と呼んでいます)。だからこそ時には出力された結果に対して「これはまだ世に出せるレベルではない」と冷静な視点で判断でき、試行錯誤できる能力が求められます。

このほか、3点目に挙げた「できるだけ様々な立場のメンバーを集める」ことによって、意外な活用事例が見出されたり、客観的な目で仕事のクオリティを判断してもらえたりします。部署間交流の場としてもタスクフォースを活用できると思わぬシナジーが生まれたりするのでおすすめです(会社にもよるかもしれませんが、純粋に部活っぽくなって楽しい、という側面もあります)。

小さく成功事例を作り、勝ちパターンを構築しよう

タスクフォース内で生成AIを使って業務改善をしていくと、大なり小なりさまざまなアウトプットが出てきます。「業務が楽になった」とか、「今まで作れなかった量の記事を作れるようになった」みたいなものもそうですし、「こういうユースケースには合わなかった」という反省も、初期のうちは有益な知見とも言えそうです。

タスクフォース内でもし「これは」という事例が浮かんだときおすすめなのは、「段階的な発信」を意識していくことです。

これは僕自身が、AI活用を検討しているライターや編集者に向けたセミナーでお示ししているスライドなのですが、AIによるアウトプットには、「個人使用ならOKなレベル」「タスクフォース内ならOKなレベル」「社内だったらOKなレベル」「広く社会に発信してもOKなレベル」という、大きく4つのレベル感があり、それぞれのハードルを超えたアウトプットかどうかを冷静に判断することが重要です。

ちなみに各プロセスは歯車のようになっていて、個人としてのユースケースが集積されて行けば、タスクフォースに報告できるアウトプットも増えますし、タスクフォース内での各人のアウトプットが集積されれば、その中の一部は、社内全体、あるいは顧客(社会)に展開しても良い水準のクオリティになっていたりします。

まずは個人レベル、タスクフォースレベルでのPDCAを回して、相互チェックしあう。その中の一部を広く社内全体や、顧客へと展開していく…そんな視点でチームを回していくと、各論の部分でのつまずきを最小限に進められるのでお勧めです。

まとめ

業務フローの変更は、簡単なようで難しいものです。意外なところに各人のこだわりがあったりしますし、AIを導入したからと言って、短期的成果につながるのか分からない場面もありもして、落とし穴は無数に存在します。

一方、冒頭で述べた通り、企業としてAIにどう向き合うかは避けて通れない問いでもあり、ちょっとした糸口からイノベーションが起こせるチャンスがあるのも確かです。まずはご自身ひとり、タスクフォースの創意工夫の中から「あの会社はすごい」と思われるような成功事例を作り出すことに専念するのがポイントかなと思います。

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